日本社会学史学会は、私が生まれて初めて報告した学会、いわゆる「デビュー学会」で、それは1987年、26歳の時のことでした。また私が学会理事になったのも本学会が初めてで、それは1999年、38歳の時でした。私自身、この学会には大変長い間お世話になってきました。この40年近くの時の間には、様々なことがありました。
そのうち最大の出来事は、本学会の理事でもあった西原和久先生と片桐雅隆先生を中心にして日本社会学理論学会が結成されたことでしょう。両先生は初めから新学会を立ち上げようとしたわけではありません。最初は、この日本社会学史学会を改革しようとした。それが挫折したことで2006年に日本社会学理論学会が誕生することになったのです。私は、当時その動きを比較的近くから見てきました。
この件に代表されるように本学会は、これまで改革には消極的でした。それは事務局が一貫して日本大学文理学部におかれていたことと関係しています。理事の任期は3年ですが、事務局は創設以来続いています。それゆえ事務局は理事以上の力を持っています。学会を改革しようとすると、それがどのようなものであっても、事務局の負担を増やします。そのことに対して、どうしても遠慮と忖度が働いて、これまで本来なされなければならない改革ができずに終わってきたのです。
しかし、それも限界に来ています。もはや、ルーティン化した仕事をしていればよいという時代ではありません。改革をしようがしまいが、社会の複雑化は事務量を増やしているからです。新しい力は必要不可欠です。そのことは、新型コロナ禍という危機があらわにしました。オンラインでの学会大会や役員選挙を開催するなど、臨機応変に対応できた学会があった一方で、本学会は第60回記念大会を中止し、役員任期の1年延長という異例の対応を取らざるを得なくなりました。また、300名近くいた会員数も減り続け、現在は200名になっています。会員数の減少は、社会学史の研究者が減っていることが原因だとは言えません。なぜなら、後発の日本社会学理論学会は、年々会員数を増やし今や300名を超えているからです。立場は完全に逆転しました。
この学会は変わらなければならない。私は今期、時代の転轍手として①事務局持ち回り制への移行、②パンデミックや自然災害等への対応強化、の2つを軸とした組織改革を行うつもりです。
ただし、本学会がこれまで保ち続けてきた良さも大事にしたい。それは、「人間に対する温かみ」とも言えることです。学史研究者には様々な人がいます。学会大会では、度々「ちょっと変わった研究者」が登壇して、場を盛り上げてくれてきました。「こんなことやっている人がいるんだ」とか「マニアックすぎて何言っているのかさっぱりわからん」と感じる研究者も多々登壇してきました。そういう研究者を包容するのが日本社会学史学会の伝統です。テンニースなら、それをゲマインシャフトではなくゲゼルシャフトでもない、ゲノッセンシャフトと呼ぶかもしれません。この伝統を守りつつ、生まれ変わった学会組織を次の世代へ引き継ぎたいと思っています。
会員の皆様からのご支援、ご協力を切にお願いして会長就任のご挨拶とさせていただきます。
名古屋学院大学 早川洋行